5月30日はごみゼロの日。有田みかんの廃棄を減らす早和果樹園の取り組み
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- 青山 航大
毎年5月30日は「ごみゼロの日」ってご存知でしたか?ゴミゼロの日はゴミを捨てない心をはぐぐむことを目的に美化運動を行う記念日です。ごみゼロという語呂合わせから5月30日に制定されました。1970年代に愛知県豊橋市の夏目久男さんの呼びかけで始まった、美化運動が全国に広がったことを記念した日です。
このブログでは有田みかんの専門店早和果樹園が取り組むみかんの廃棄ゼロへの取り組みを紹介します。
早和果樹園について
早和果樹園は和歌山県有田市にあるみかんの農業法人です。有田みかんの生産から加工・販売を手掛ける6次産業化に取り組んでいます。
早和果樹園の始まりは1979年。7戸の有田みかん農家が立ち上げた「早和共選組合」が前進となって、2000年に「有限会社早和果樹園」を設立しました。2003年に有田みかんの加工事業を開始し、2005年に株式会社化しました。
法人化した頃の早和果樹園では、通常11月頃に収穫する早生みかんを樹上で約1ヶ月熟成させる「早生みかんの完熟」に取り組みました。栽培法が難しく、細かな管理を必要としますが、完熟させることでより甘みの強い美味しいみかんを作ることができ、市場でも高評価を得ました。
有田ミカン農家、ジュース加工始める
早和果樹園が取り組む早生みかんの完熟は、非常に美味しいみかんができる反面、天気によっては完熟が行き過ぎてしまい、全滅する危険性もあります。
ある年の完熟みかんは、とても美味しい味わいに仕上がったにもかかわらず、収穫直前の雨続きという天候の影響で、過熟となり皮にひび割れが入り、商品価値が著しく下がってしまうことがありました。本来なら市場で1キログラムあたり400円の値段がつく完熟みかんが出荷できなくなってしまい、加工用に回さなければならなくなり、わずか7円という悲惨な値段になったこともありました。
また、青果での販売は生産量によって価格変動が大きく変動することもあり、青果だけの販売にはリスクがある。これからは青果の販売だけではなく、加工を取り入れなければ生き残れないと考え始めました。
特別に選りすぐった有田みかんをおいしいみかんジュースにしようと考え、和歌山県内にチョッパーパルパー方式という特別な搾汁方法の設備を持つ会社に出会いました。チョッパーパルパー方式は、みかんの外皮をむいてから果肉の部分のみを裏ごしするようにして搾ります。皮の油分や苦味が入らないため、そのままみかんを食べているかのような味わいのジュースに仕上がります。
光センサー糖度計で選りすぐった糖度12度以上のみかんだけをこの会社に持ち込み、搾ってもらった果汁を一斗缶で送り返してもらい、自社の小さな瓶詰め工場で製品化し、販売することにしました。これまでのジュースの概念を変えるような、最高に美味しいみかんジュースを作りたい。その想いが実り、2004年に早和果樹園で初めての加工品である「味一しぼり」が完成しました。
自社工場の建設
百貨店や和歌山県内での試飲販売を重ね、味一しぼりが売れ行きを伸ばす中で、新たな問題が浮かび上がってきました。味一しぼりは、みかんの味をそのまま生かすため、チョッパーパルパー方式という手間ひまがかかる方法で搾汁しており、和歌山県内の加工会社に搾汁を委託していました。しかし、商品が売れ、搾汁量が増えるにつれ、そこだけではキャパシティが足りなくなってきたのです。加工品の売れ行きが好調なことにより、経営が成長安定した現状なら、自社工場で搾汁したほうがメリットが有ると判断し、2014年に本社近くに搾汁工場を建設し、チョッパーパルパー方式の設備を導入し、自社搾汁を開始しました。
みかんの廃棄物に気づく
自社搾汁の開始によって初めて気づいたことがありました。ジュースを搾れば搾るほど、あるものが大量に発生するということです。それは「残渣」、つまり廃棄物です。早和果樹園のみかんジュースには皮は使用しません。むいた皮は使い道がないので、ゴミとして捨てるしかありませんでした。ジュースを搾った搾りかすも、やはり廃棄(堆肥としてリサイクル業者に委託)するしかありませんでした。みかん100トンを搾ると、55トンがジュースになり、廃棄する残渣の量は45トンもありました。
それまでは、生のみかんを委託先工場に送り、一斗缶に入って戻ってくるジュースだけを使っていたため、予測も付きませんでしたが、自分たちで搾ってみて、ようやく残渣の多さに気づいたのです。
みかんの廃棄ゼロで、有田みかんの価値を上げる
おいしいみかんジュースを搾るためとはいえ、みかんの半分がムダになることに気づいたとき、ある大手漢方メーカーが早和果樹園を訪ねてきました。
みかんの外皮を乾燥させたものは「陳皮」とも呼ばれ、昔から漢方薬の原料として利用されてきました。
一般的なみかんジュースは皮ごと搾ってジュースにしますが、早和果樹園では皮をむいてから果肉だけをジュースにするため、純粋な皮の部分だけが排出されます。この製法に目をつけた、漢方メーカーに「排出されたものは全て買い取る」と言っていただき、2015年より陳皮の生産を始めました。これによって、今まで廃棄処分していたみかんの外皮が、商品に生まれ変わりました。
今では、みかんの外皮だけでなく搾ったあとの内皮も利用しています。チョッパーパルパー方式では、みかんの果肉を裏ごし機にかけるため、搾ったあとのみかんのフクロの部分が排出されます。
このフクロを使用したおふくろスムージーは人気商品となりました。
早和果樹園のこれから
早和果樹園では自社園地で栽培されたみかんだけではなく、地域の有田みかんも買い入れ、有田みかんを使用した商品を日本中にお届けしています。みかんの果汁だけでなく皮やフクロといった全ての部分を利用することは、食品ロスを減らすだけでなく、みかん1個の価値を上げ、加工用みかんの買取価格向上にも繋がります。
地域産業である有田みかんの魅力を日本中、世界中にお届けするため、新商品の開発や情報発信に取り組んでいきます。
【参考文献】
●エコジン 2019年4・5月号VOLUME.70 ごみゼロの日|環境省
●ゴミゼロの日、5月30日から考えよう。国内のゴミ事情や取組みについても紹介|KOMERU
●秋竹新吾,2020,日本のおいしいみかんの秘密 農業の6次産業化による奇跡の復活,株式会社PHP研究所,ISBN978-4-569-84535-7
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